片栗粉でつくったような、硬くて厚い雲をボ~っと眺める。
むしろ修羅の国だよここは。なんて思いながら。
この国は生きやすい。というか、生命を維持しやすい。生活から抜け出すのは容易く無い、生暖かくて可もなく不可もない半快適な環境に、人々は自ずと甘えてしまい深く根を生やしている。ほんのちょっと頑張るだけで生きられてしまう。ただ周囲を見渡して背を比べ、波に身を任せているだけ。こうして、半永久的に続くけれど、”鈍くて薄いゆえに何とか耐えられてしまう不幸せ”に慣れ、飴を削り続けて生きる。凪の海を眺め続け、塞ぎ込むような。
海があんなにも綺麗なのは、こっちへおいでと手招きしているから。一線を越えた者だけが到達できる世界へ。海はその圧倒的な強さと美しさで、見る者を常に魅了し続ける。ただでさえヒトは、太刀打ちできないほど壮大な自然には、無意識に惹かれてしまうから。生命なんて簡単に飲み込んでしまうような怖さや危うさも、その美しさに拍車をかける。だが海は何人の冒険も優しく受け入れたりはしない。この星で、かけがえのない宝を得るには、深淵より深い闇を越えなければならない。そこはかとなくそこにある海。それに安易に足を踏み入れて翼を捥がれた者がどれだけ居るだろうか。
これ以上、夢見る犠牲者を増やさないために、血の海にしておこう。希望なんてものがあるから、人は傷を負うんだね。だったらいっそ光輝く美しいものはすべて、この星から消し去ってしまおう。途端、この星から美しい蒼は失われ、まるで使徒を待つかのように殺伐とした、巨大なざくろ石が完成する。このまま時計を進めて様子を見よう。さて、癒しを失った人々は、挑戦はおろか歯車である事すら忘れて停止し始めた。皆が同じ方向を向いて生きる。やはりそこに希望はなく、ただ日々生活を繰り返すのみ。人々の目線は日に日に下を向いていき、空を見上げるどころか前を見つめて生きる人すら、居なくなってしまった。そして滅びる。どうやら人間には、光やら希望やらが必要らしい。たとえそれが他人事だったとしても。
だったらもういっそのこと、海の水はぜ~んぶ、ダイラタンシーにでもしておこう。これなら本気で地面を蹴り続ければ渡り切ることもできるでしょ。もちろん止まれば沈む。沈んで二度と浮き上がって来られないだろう。まぁ、簡単だよただ走り続ければいいだけ。むしろその程度の覚悟すら無い者は、一生その辺で文句垂れてボ〜っとしていればいい。容易に未来を得られるワケが無いのだから。
決めつけないでね、限界。
そうだな。とりあえず片足だけでも踏み入れてみるとしよう。最悪引き返せるのだ、意外とね。だけどその一歩で世界は必ず変わる。
そうやって一つずつ、誰も観た事のない景色、たくさん集めて。
はやくね。