銀河を超える光に

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郷愁の魔力

人類のみんな。あなたの産まれた場所は?

 

おれは空も海も空気もキレイで、心豊かな街で産まれ育った。
不便だし、クッソ雨降るし、ガソリンは日本一高いし、時計の針は鈍く進む。全方位を山で囲まれた県庁所在地の町並みは、自然豊かだが広大ではなく、常に何処にも行けない己と向き合うことを強要されるようだった。それゆえに心だけはスクスク育ちすぎるほどに育った。

 

この街は、JRは基本1両で1時間に1本、終電は21時台。路面電車は謝りながら走っている。公共交通機関を使うことはあんまりなく、車かバイクでの移動が基本だった。線路に縛られず縦横斜めどこへでも思いのままに赴いた。見たいもの、食べたいもの、思いつく限りすべてを摂取した。それらの体験が、いまの人格を形成するのに大きく作用していると思う。つまり、地元で20数年を過ごし、大阪に引っ越してまだ1年のおれを作る成分のほとんどは、地元で得たもの。遺伝子レベルで故郷に惹かれるのは、至極当然の事。

 

"郷愁の魔力"の前では、意地も頑固も無力。
ヒトは産まれた場所へ還りたくなる。

 

そういうふうに予め脳にプログラミングされている。

 

今年の夏、8月、ただでさえクッソ暑い地元が日本でいちばん蒸し"熱く"なる数日間。おれはムリヤリ帰省して熱気を分けてもらってきた。大阪でよさこいソニックを行った後、本場の"よさこい"を観に帰った。産まれてから大阪へ引っ越すまで、毎年浴びてきた熱気を、どうしても摂取せずには居られんかったので。地面を焼き尽くすかのような太陽光、ものともせず一心不乱に踊る踊り子さん。人生でいちばん生命力を感じる瞬間。そして、地元の見慣れた街並みに飾られた、おっきな夕暮れの空は、おれのジグザグな記憶をぜんぶ包み込んでくれた。祭りの後の静けさもあり、より鋭く、眩しくこの目に映る。棘を抜いたような、コンプをかけたような、ガリを取ったような。つらいも、かなしいも、さびしいも、郷愁の前では所詮しわせな記憶に改竄されてしまう。

 

キレイだな、落ち着くな、幸せだな。
そんな言葉で郷愁を消費するような豚にならぬよう気を張る。
"幸福"だけが幸せではない。光も闇になるし、闇が照らす光もある。言葉は本来含まれるべき冗長をトリミングするから、感情に型を作ってしまう。危険だ。

 

ともかくおれは今、おれをつくるため、新天地で生きている。

虹色の靴を履き、音速で生活をしている。走馬灯の最後に、何よりもキラキラ輝く一枚を添えるため。故郷では得られなかった新しい成分は、体にうまく馴染まず困っているが、いずれおれを大きく、広く、海に近い存在にする。こっちでの生活が長くなれば、それもまた郷愁に変わる。いまはそれを寂しく思うが、いずれは体にスッと馴染んで優しい感情になるんだろうね。

 

この街の風景をなるべく沢山、摂取してやる。

 

いつか金色を纏って帰れる日まで。

 


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